未来は誰のもの?
自分の未来
暑い夏も終わりが近づいてきた9月の下旬。晴れ渡る青空の下、涼しげな秋風が吹き抜ける。
秋色に染まる街を歩く人々は徐々に衣替えをしており、街も人もこれからの季節を待ち望んでいるようだった。
そんな中、青年はそんな季節の変わり目に憂鬱な気分でいた。季節の変わり目で体調を崩し、3日間も仕事を休んでいたのだ。おまけに彼女と行くはずだった旅行も行けずにいた。楽しみにしていた旅行だったのに・・・
青年の気分を落ち込ませることは他にもあった。
今の仕事について早7年が経ち、会社の中では中堅的立ち位置にいた。
課せられた仕事はそつなくこなせられる自信があったし、
同僚や上司から頼られることもあった。
しかし先行きが見えてしまうようになったのだ。
このまま仕事を続けていったらどの程度収入が増えていくのか、
いつ頃昇進するのかなど自分のキャリアのおおよそ見えてしまうのである。
そう思うと何だか退屈に思えてしまうし、
他にもやりたいことがあるような気がしてしまうのだ。
次に私生活の面である。
今付き合っている彼女とはプロポーズを終え、
婚約者という立ち位置であり来年には結婚を控えている。
とても幸せだし、彼女とこれからの人生を過ごすのは楽しみなのである。
しかしこちらもおおよその未来が見えてしまっているような気がしてしまうのだ。
結婚して、子どもができ、家を建て、裕福で無いものの大きくお金に困ることもなく静かに暮らしていく。
もちろん周囲のみんなが目指している幸せなことだし、そんな生活も実現できるかは分からないが何となくイメージできてしまうと、どこか退屈に思えてしまうのだ。
自分の将来がすでに決まっているような、そんなことを思いながら青年はぽつりと呟いた。
「未来は誰のものなんだろう」
そんなことを考えながら歩いていると目的地であるカフェに到着した。
謎の老人との出会い
西洋風な外観をしている店舗に足を踏み入れるとそこには誰もが思い浮かべる喫茶店の姿がある。
いわゆるチェーン店だが、青年はこの店のコーヒーが大好きなので週3回くらいのペースで通っている。
いつものように店員に1人であることを伝え、案内された席に座ったと同時にアイスコーヒーを注文し、コーヒーが来るまでスマホで読書をする。ここまでがいつもの流れなのである。
しばらくしてコーヒーが届き、スマホから顔を上げた青年は目を疑った。
いつの間にか自分の真向かいに老人が座っていたのだ。
「うわぁ」
結構リアルな驚きの声が出てしまった。謎の老人がいることよりリアルな驚きの声を出してしまったことに少し恥ずかしさがあった。それでも話しかけないわけにはいかず、
「あの、すみません。僕この席に座っていたので別の席に移ってもらえます?」
店員が間違えてこの席に案内してしまったのか、老人が間違えたのかどっちでもいいのだが、とにかく気味が悪かったので席を移ってもらえるように声を掛けた。
しかし老人はにこやかな顔でまるでそう言われると思っていたかのように答えた。
「いやいや、私はこの席でいいんだよ。君と同じ席でね。」
青年は絶句した。店員通り越して今すぐ110番すべきか悩んだが、穏便に済ませたかったため自ら席を立とうとした。すると老人は青年に質問を投げかけた。
「君は未来が誰のものか知っているかね?知りたくはないかね?」
その言葉に青年はギョッとした。今まさに自分の心の中に燻っている言葉をずばり言い当てられ、青年はぎこちない顔で椅子に座り直した。
「知らないですし、知っても面白くないと思っています。」
「本当にそう思うのかい?本当にそう思っているのなら、君はこの質問の答えを分かっていないんだね。」
そう言ってにんまりしている老人を見て、青年はムッとした。
確かにこの老人と自分では年齢もだいぶ違うだろう。
それでもある程度の人生経験は積んできたし、何なら人生の見通しもそこそこついている。
なんで少し見下してくるんだよ。青年は悪態をつきながら挑戦的に言った。
「そうですか。なら教えてくださいよ。こんな若造で未来のことも何も分からない凡人に!!!」
「はっはっはっは。そういうと思っていたよ。ならそうだな、まず初めは・・・」
この時、青年はこの老人いや老紳士に最高の教えを授かるとはまだ微塵も思っていなかった。
体調管理をする
「君は元気かね?」
急にそう聞かれたものだから咄嗟に、「はい、元気です。」と答えた。というか大抵の人は体調が悪く無い限りそう答えるだろう。だって体調が悪く無いんだから。
「あっ、でも少し前に季節の変わり目で体調を崩しちゃって。ほんとこの時期は嫌ですよね。」
老人は相変わらず優しそうな笑みを浮かべながら聞いてきた。
「それは大変だったね。ちなみに君は健康を意識して取り組んでいることはあるのかい?」
「もちろんありますよ!意識的に野菜を食べているんです!週1回以上は!!」
「はっはっはっは。君はお笑いの才能があるな!」
「いや、結構真剣なんですけど・・・」
ここ最近で一番ショックだったかもしれない。
確かにご飯を食べるよりお菓子の方が好きだし、飲み物は断然ビールがいいし、それなら脂っこいものが合う。
食生活が乱れていることはその道の専門家でなくても何となく分かっていた。だからこその週1ベジタブルだったのに・・・
「食事は体調管理をする上でとても大切だよ。なんせ食べているものが君の体の全てを作っているのだからね。」
「それでも僕は食事制限とかそういうのはするつもりありません。好きなものを好きな時に、好きな量食べるんです。ビールに唐揚げにラーメンが僕を呼んでいるんですよ。」
「いや、全くもって呼んでいないからそこは安心してくれていいよ。君は好きなものを好きな時に食べると言っているが、その結果どんな未来が待っていると思う?」
「うーん。幸せな未来かな?だって少なくとも食に関してはだいぶ幸せだもん。」
「本当にそう思うのかね?君だって分かっているはずだよ。」
もちろん分かっていた。
そんな食生活を続ければ健康に支障をきたすと。
この前、体調を崩した時も彼女に小言を言われたばかりだ。
「君が食べた物が明日以降、これからの君になっていくんだ。
栄養のあるものを食べれば君の体は健康を維持することができるかもしれない。
しかし栄養が偏ったり、不足してしまうとその分未来の君は困ることになってしまう。」
「はい。その通りです。でもどうしても欲求に勝てないんです・・・」
「それなら君には欲求の本質について教えないとだね!」
「欲求の本質ですか?」
「そうじゃよ。たとえば女の子にモテたくて高価な服が欲しいとする。
その場合、高価な服が欲しいに意識がいきがちになってしまうが、実際は女の子にモテたいんじゃろ?
それなら他にも、ジムに行き体を鍛えるとか、勉強して女の子にモテそうな仕事に就くとか色々あるじゃろ。
しかし、人はその中から欲求へのプロセスに一番簡単そうで楽なものを選んでしまいがちなのじゃよ。」
「うーん。確かにその通りかも。
この前、彼女とデートした時どうしてもラーメンが食べたかったけど彼女にカレーがいいと言われて渋々カレーを食べたんです。それなのに、食べ終わった後はカレーで良かったとさえ思っていました。
それに楽な方を選びがちなのも納得です。小腹がすいたらすぐに食べられるスナック菓子を食べてしまいますし、会社終わりで疲れていることを理由に何日連続でカップ麺を食べたことか・・・」
「もちろん、時には楽な方を選ばざるを得ない時もあるじゃろ。それに大変な方ばかり選んでいても人生疲れてしまうからね。
それでも欲求を感じている時は欲求を満たすために、どういった手段を用いるか立ち止まって冷静に考えて欲しいかな。君の選択が君の未来に影響を与えているのだからね。」
「分かりました。常には難しくても余裕がある時には、自分の未来を考えた上で決めて生きたと思います。」
「うん。いいことじゃよ。後は運動と睡眠もとても大切じゃよ。よく食べ、よく動き、よく寝ることそれが君の素敵な未来への土壌となることを覚えておいてほしいね。」
「よく親や先生に言われてきました。でも社会人になると大事なことなのに意外と疎かになりがちですよね・・・」
「運動なら5分の散歩からでもいいから日々取り組んで欲しいな。体を動かすことは体にも心にもいいからね。それと睡眠は個人差もあるけれど最低でも7時間は寝て欲しいね。」
「それくらいならできそうです。何だか散歩して帰って寝たくなってきました。」
「はっはっはっは。気が早すぎじゃよ。」
この頃には青年は老人のことを近所のおじさんくらいには気を許していた。
やりたいことを見つける
「でも今から帰って寝ると変な時間に起きちゃいますもんね。明日仕事だし支障をきたすからなぁ。」
「仕事に対して誠実でいいことだね。」
その言葉に決して嫌味はないことは老人のにこやかな顔を見れば分かるのだが、最近退屈だと思っている仕事なだけに少しイラッとしてしまい、つい反論してしまう。
「いや、全然そんなことないですよ。お金のためですよ。」
少し荒っぽいことを言ってしまったが、老人はやはりそう言われると思っていたという雰囲気だった。
「なら君にとってやりがいのあることは何かあるかね?」
「やりがいですか・・・」
そう聞かれて少し困ってしまった。少しの間考えてみたが、やりがいはなかなか見つからなかった。
「人生においてやりがいはとても大切だよ。自分のやりたいことをやるのはそのまま生きがいに繋がるからね。人生の幸福度に直結するんだよ。」
「そう言われましても、やりたいことがわからないのですが・・・」
「本当にそうかね?子どもの頃はたくさんあったはずだよ。毎日がやりたいことで溢れていたはずだ。」
「子どもの頃かぁ・・・確かにそうだったかも・・・」
「しかし大人になると皆、目の前のやらなくちゃに精一杯で自分の中にあるやりたいに気づきにくくなってしまうのじゃよ。
だからこそ一度時間を作って自分の中のやりたいを引き出さなければならないのじゃ。」
「なるほど。すでに答えは自分の中にあったんですね。でもどのように引き出すんです?」
「そんなの簡単じゃ。
メモ用紙に自分が子どもの頃やりたかったことや大切にしていたこと、どんな世界を期待していたかなどを洗いざらい書き出していくんじゃよ。それに君の子どもの頃をよく知る人に聞いてみるのもいいかもしれないな。自分でも忘れていることを思い出させてくれるかもしれないよ。
そうすればきっと君のやりたいことが見えてくるはずじゃ。」
「自分のやりたいことか。そう言えば子どもの頃はたくさんしたいことがあったなぁ。なんで忘れてたんだろ。」
「皆さまざまなことに追われているからね。
忙しいこの社会では仕方のないことかもしれないけど、君の未来が少しでもやりがいのあるものに満ちているようにやりたいを見つける時間を定期的に作っていって欲しいな。」
「はい。でも質問なんですが、大人になってからはやりたいことは見つからないのです?」
「そんなことはないよ。大人になってからもたくさんのやりたいは見つかるよ。
人と会う、どこかに行く、本を読む、知らなかったことを学ぶ、大人になってからもたくさんのやりたいは隠れているんじゃよ。
子どもの時と違って見つけるのが下手になっているだけでね!きっと子どもの時のやりたいをたくさん引き出しているうちに探す力が戻ってきてやりたいが溢れてくるよ。」
老人のその言葉に青年は胸がワクワクした。
何だか世界はとても素敵だと思ったし、これからの人生が一段と楽しみになった気がした。
もっとこの老人から教わりたいと心から思ったが、
しかし青年は熱するのが早いだけでなく冷めるのはもっと早かった。
計画を立てる
「でも待ってください。確かにやりたいことが溢れているのは素敵ですが、僕にはそのやりたいをする時間がないんですよ。」
少し考えれば分かることだったのに、ワクワクを返してほしいと思いながら率直な反論をすると老人は笑いながら答えた。
「はっはっはっは。確かにそうだよね。さっきも言った通り君は目の前のやらなくちゃに手一杯のようだからね。」
「そうなんですよ。ですからそもそもやりたいことを洗い出す時間も余裕もないんです!」
「本当にそうなのかね?君の生活はそんなにやらなくちゃでパンパンなのかね?」
「パンパンというほどではないですけど・・・でも休息の時間も必要ですし。」
「その通りだね。では1日どのくらい休息をしているのかね?睡眠時間は含めずにね。」
「えーと、仕事が終わって家に帰ってから、ご飯を食べてお風呂に入って寝るまでの4時間くらいかな。でも残業があるともっと短くなりますけど!」
「なら休息の時間は固定してもいいんじゃないかな?たとえば残業がある日は寝るまでの間休息してもいいけど、残業がない日は残業時間分をやりたいを探したり、実行する時間にしてもいいんじゃないかな。」
「えー。でものんびりしたいんですけど。それに決めてもその日にあったら絶対サボる自信あります。3日坊主は得意ですので。」
「誇ることではないが、ほとんどの人はその傾向があると思っておる。人は立てた目標を達成すのが苦手だからじゃ。しかし目標を立てることは好き好きという矛盾を抱えておる。」
「そうなのかもしれません。目標立てるのはめっちゃ楽しいです。僕の彼女なんてワクワクしながら目標立てて次の日にはサボってましたもん。」
「なぜ目標にたどり着けないか。それは計画作りが上手くいっていないからじゃよ。どんな立派な目標でも緻密な計画がなければ到達できない、すなわち計画は地図のようなものじゃな。」
「計画は地図ですか?」
「そうじゃよ。地図ならばより細かく詳細でなくてはならないし、道が変化することもあるだろうから定期的に見直しをして、本当にこの地図でいいのか?と修正をする必要があるのじゃよ。そこまでしてようやく目的地まで辿り着くことができる、かもしれないのじゃが。」
「・・・かもです?そこまでしたら絶対辿り着きたいんですけど。」
「そうじゃよね。でも絶対の計画なんてないんじゃよ。どんな簡単な目標ですら思いもよらぬトラブルで計画から外れてしまうこともあるかもしれないからね。
でも精度が高ければ、目標へ到達できる可能性は上がるし、何より君の経験になるからね。」
「計画に重要性は分かりました。でもやはり精確な計画を立ててもサボってしまう気がします、それはどうすればいいですかね?」
「はっはっはっは。君は正直だね。それならまず期限を決めることだね。いつからいつまでするのか決めることでだらだらと先延ばししてしまうことを防ぐことができると思うよ。
それと計画を立てたら誰かに共有してほしいね。できれば目標や計画に興味を持ってくれて、君を応援してくれる人がベストだね。そうすれば君の計画と目標はもう君1人のものではないから、頑張るしかないよね?」
「確かにそれならサボらずに出来るような気がします。人を巻き込んいてサボるのは、流石の僕も抵抗ありますもん。」
「そうじゃろ。効果抜群じゃ。君が心からやりたいことが一つでも叶えてくれるのが楽しみじゃよ。」
青年は一刻も早く計画を作りたくなっていた。そして共有する相手は彼女である。
これから先の未来で、人生を共にするパートナーに自分のやりたいを応援してもらいたい。そう思ったと同時にある不安が青年を襲った。
幸せを信じる
自分のやりたいこと。それがもし大きなことだったら、彼女はそれを応援してくれるのだろうか?
現在は婚約中で2人とも実家暮らしをしているのだが、近々同棲をしようと準備をしているところである。
青年にはそこまでの貯蓄がないため今後の結婚、出産、マイホームなどのライフイベントを考えると胸が痛くなるし、実際お金のことで彼女と口論をすることも多々あった。
堅実思考な彼女が自分のやりたいことに絶対賛成してくれるとは限らないし、口論のタネが増えると思うと共有するのも悩ましいのである。
青年はやはり自分の未来はこのまま変わらないものだとまた憂鬱な気持ちになってしまった。
それを察したのか老人は心配そうに声をかけた。
「どうしたんだね?何か不安なことでもあるのかね?」
この老人には敵わないなと思い、青年は不安に感じていることを素直に話すことにした。
「もし彼女が僕のやりたいを応援してくれなかったらどうしようかと思いまして・・・」
「どうしてそう思うのかね?」
「もしも僕のやりたいことのせいで結婚、出産、マイホームなどの一般的な幸せからズレてしまう可能性があれば、きっと彼女は反対しますし僕自身も抵抗があります。」
「一般的な幸せと君のやりたいがズレると不幸なのかね?君のやりたいは君にとっての幸せでないのかね?」
「僕にとっては幸せです。しかし一般的な幸せも大切だと思いますし・・・」
「君のやりたいが人を傷つけるとかそういったネガティブなことならわしも大反対だが、そうでないなら何故君は自分自身の幸せと一般的な幸せを天秤にかけるのじゃ?幸せは人によって違うのだから一般的な幸せが全員の幸せに当てはまることは絶対にないんじゃよ。」
今までで一番真剣な顔で話す老人に少し驚きながら青年は疑問を投げかけた。
「それでも僕の両親や祖父母、周囲の大人は大体が一般的な幸せの通りに生きていますよ。だからこそ一般的な幸せが正解なのではないですか?」
「その人たちは本当に心の底からその一般的な幸せを望んでいたのかね?自分のやりたいを抑さえてはいないかね?それに君自身はそんな未来に対してどう思っているのかね?」
「・・・・・」
青年は知っていた。
自分の父親が本当は経営者になりたかったことを。
自分の知り合いがカフェを開きたかったことを。
努力しても、緻密な計画を持ってしても到達できない目標もある。
それでも自分のやりたいを押さえて、
未来をただ無思考に一般的な幸せに委ねるのはやはり退屈だと思う。
自分の未来は自分で決めていきたい。青年は静かに決意をし答えた。
「一般的な幸せに僕の未来を委ねたくありません。彼女と話し合い、お互いが心の底から幸せと思えるそんな未来にしたいです!!」
老人は安心したようにいつもの笑顔に戻り青年に優しく答えた。
「君ならそういうと思っていたよ。いいかい、どんな時でも君自身の幸せを信じてほしい。大変なこともあるかもしれないけど君が君らしく幸せであること、それがわしにとっての幸せじゃよ。」
「そんなこと言われたら照れちゃいますよ。」
君の未来へ歩き出そう
青年はとても清々しい気持ちになっていた。
この老人に会っていなければ、きっとこれからも未来へ退屈な感情を抱いていただろう。
しかし、今は希望に溢れている。
「本当にありがとうございました。あなたのおかげでこれからの未来が楽しみになりそうです。」
青年自身、自然と感謝の言葉が出てきて少し驚いたが言葉では足りないくらいだった。
「いいんじゃよ。でもこれだけは覚えておいてほしいんじゃ。
これから先、君はどれだけ体調管理をしても体調を崩してしまう日が来るじゃろう。
やりたいを見失ってしまう日もあるじゃろう。
計画が上手くいかないときやサボってしまう日もあるじゃろう。
それでいいんじゃ。たまにはお菓子を食べすぎても、疲れた時はサボっても、弱音を吐きたいときは吐けばいい。
辛い時は誰かに頼っていいし甘えてもいいんじゃよ。
頑張れない時は頑張らなくてもいい。
自分を嫌いになる日もあるだろう、
でも忘れないでほしい。
君が生きているだけで幸せな誰かがいるということを、
応援してくれる人がいることを、
未来は君が変えられるということを絶対に忘れないでほしいかな。」
老人は涙を浮かべながら真っ直ぐと青年を見つめた。
青年も涙を浮かべながら答えた。
「忘れません。僕の未来は僕のものです。」
老人は満足そうな顔を浮かべながら何度も頷いていた。
「あのー、すみません。もうすぐ閉店なんですけどぉ」
青年はハッと顔を上げた。
そこにはさっきまでいたカフェの席だったが目の前にいたはずの老人は居ない。
代わりに気だるそうな店員が横に立っていた。
「かなり熟睡してましたよね?コーヒー飲んでも寝れるものなんですね。」
そう言われて時計を見ると20時になろうとしていた。
このカフェの閉店時間だ。どうやらいつの間にか寝てしまったようだ。
「すみません。つい寝てしまって・・・ちなみに僕と同じ席にいたお年寄りはもう帰られたのですか?」
「えっ?お客さんは入った時から1人じゃないですか?」
「えっ?」
そんなことがあるのだろうか。
ならあの老人との会話は夢の中での出来事だったのだろうか。でも妙にリアルだったんだよな。
とりあえず閉店間際なので、急いで会計を済まし外に出た。
外は少し肌寒い風が吹いていた。これから季節は変わっていく。
変わらないものなんてないこの世界で、自分の未来はどう変わっていくのか。
来た時とは違う自信のある足取りで青年は未来へと歩き出した。